ピックアップ・チーム
本社選手によつて詮衡

木造 「各個人の守備について内野手は内野手を、外野手は外野手を二人位づゝ擧げて下さい」

腰本 「二塁手としてはワシントンのハリス監督は目下日の出の勢ですが、まだまだホワイトソックスの監督コリンスの方が二塁手としては上でせう、ハリスの目立つてゐるのは、一つは遊撃にペギンボーがゐるためで、コリンスが若いデヴィスを助けながら、二塁と遊撃の間に間隙を生ぜしめない点は偉い。
 一塁手としてはデトロイトのブルーが近頃賣出して來ましたが矢張り華かな上に堅實味のあるブラウンの御大シスラーに指を屈します、ゴロを取つてからの各塁への投球はもとより、捕球に際して少しの不安も與へないのは流石です。
 三塁手には可なり澤山名手がゐるために一寸選択に迷ふが、グロー衰へ、リンドストロームの大成しない今日、ヤンキーのジューガンが何と云つても第一でせう、六尺豊かな身体を自由自在に活動させて前後横は勿論、如何なる球でもこれを捕へた所より投球する点は、他の選手の追随を許しません、まあ守備を本位としては、この三人は見逃すことの出來ないプレーヤーでせう」


桐原 「個人としては、矢張り有名な選手は大抵巧いものです、先づ注文の通り内野の中から二人選べば、ワシントンのハリス、ペギンボーを逃すことは出來ませんね、ハリスは決して派手な処はありませんが、彼れの渋味のある守備振りは確實そのもので、二塁手として、理想に近く、その相役ペギンボーは又老巧なる事遊撃手として随一で、如何なるピンチに臨んでも、この二人が二塁、遊撃に並べば鐵壁とも云へるでせう」

内海 「遊撃ではターベナー、三塁手ではダィクスです、他の内野手と比較して子供のやうにみえるほどの短躯ですが、ターベナーの守備範囲の廣い事、その正確なる投球、沈着なる態度は學ぶべき所です、フィラデルフィアの三塁手ダィクスは、早大井口君とよく似てゐた、殊に守備において投捕球の姿勢、元氣一杯のプレー振りがいゝと思ひます」

高須 「左翼手にホヰート(ブルックリン)ゴスリン(セネタース)中堅手にスピーカー(クリーブランド)カッブ(デトロイト)を推しませう、是等の人々は外野手としての資格といはうか、その打力及び守備範囲を廣くする根本となるべき走力の豊かなこと及び捕球の確實飛球に對する判断の正確等の條件を完備してゐる人々で、さうして、各自の特長に従つて、或ひは第一打者或ひは三四番打者として遺憾なくその任務を果してゐます、これ等のことから推しても他の外野手とは比較にならないのです」

二神 「外野手では何と云つてもスピーカーを推し度いと思ひます、ヤンキースとのゲームで、たしかフルベースの時、ホヰートの打つた右中間の三塁打とも見える猛烈な直球を逆モーション(スピーカーは左打ち)にも拘はらずスライディングキャッチをした時の光景は未だ目の前に浮んで來ます、實に神技とはこんなのを云ふのでせう。
 カッブにも感心しました捕球に余裕を残してゐるのは、攻撃だけの猛者でなくて守備にも立派な人です、ゴスリン、マクニーリー、ライスも亦共にワシントンの外野を固める上になくてはならぬ人であり、元氣横溢なヤングは守備にもまた球を取るか球にブツかるかと思ふ位ゐの精悍さで、右翼を守つてゐるのはたしかに痛快を叫けばします」


菅井 「左翼にミューゼル(兄弟)ゴスリン、中堅にスピーカー、カッブ右翼にヤング、ヘイルマン、ルースを擧げます、右翼の内一人をピックアップすることは一寸不可能な様に思ひますが、無理に云へばヘイルマンを擧げませう、この三人は打撃の点から云つて各両リーグの最高打者圏内であるのと各特別の特徴を有してゐます。守備に就て言ひますとヤングはヘイルマン、ルースに比して精悍ですがヘイルマン、ルースはどちらかといへば、じみなプレーヤーです、ルースは病氣あがりのせいかなんとなく吾等にだらしのない感を與へました」

川越 「左翼手には強打者でセネタースの至寶ゴスリン及び目下デトロイト軍でカッブ及びヘイルマン等と並行し、又アメリカン・リーグのリーディングバッターの圏内にあるウインゴーを擧げ中堅手にはカッブ及びスピーカーを擧げるのには何人と雖も否まないと思ひます、右翼には巨人軍の帷幄の人ともいはれてゐるヤングにヤンキースのルースを私は推薦します」

木造 「それでは投手三名、捕手二名と各ポジションに就て各一名と内外野手の補欠各一名をピックアップして下さい」

其結果左の如し
 ▲投手九点ネーフ、八点ジョンソン、六点バーンス
 ▲捕手八点ショーク、八点ルーエル
 ▲一塁手八点シスラー
 ▲二塁手六点コリンス
 ▲三塁手五点ジューガン
 ▲遊撃手九点ペギンボー
 ▲内野補欠五点ケリー
 ▲左翼手七点ゴスリン
 ▲中堅手九点カッブ
 ▲右翼手九点ヤング
 ▲外野補欠六点スピーカー

大阪毎日新聞・大正14年8月22日

トレーニングの効果
日本で是非やりたい

木造 「先づ是れでメージャーリーグの本体に関する事は終つた事にします、實は問題がいくらでもあるのですが、時間が無いから打切るのです、それで今度は何なりと感じた事を述べて下さい」

「六月二日にジャイアントとブルックリンの試合を見に行つて小野君と二人でジャイアントの選手更衣室に行つて見ましたが、机のやうな台の上で選手達が手、足、背中等にアルコール、アブソービン等を塗つて頑丈な身体つきをしてゐる二人の黒人に摩擦して貰つてゐましたが、このトレーニングの事は日本では屡々聞いてはゐたところで、初めてこれを實見することが出來ました」

高須 「アブソービンといふのはアルコールに樟脳水を混合したやうな液で之を塗ると皮膚が暖まるので、我々もやつて見たが非常に効果があります」

小野 「その時投手のネーフにトレーニングの効果について聞いたら自分も矢張り始終やつてゐる、是は野球選手は是非やらねばならぬと頻りに勧めて呉れました」

川越 「トレーニングの事は渡米チームなどから話だけは時々聞く事もあつたのですがピッチャーだけやつてゐるやうにも考へてゐましたのに、投手以外の各選手もやつてゐるのを實地に見たのは初めてゞす、自分等も實行すると身体工合が非常によくてゲームも樂々出來た次第でした、別にむつかしい事では無いから日本内地でも各選手とも必ずやるやうにしたいと思ひます」

渡邊 「さうです、トレーニングは身体の状態のいゝ人でも實行するので、之を施すと調子がよくなり例へば私のやうに學校時代から肩を痛めた事がなく、今度の遠征でも何ともなかつた者でも、トレーニングをやつてから試合に臨むと最初から何の不安もなく思ひ切つて投球する事が出來ます。それで野球選手は是非やるべきものだと断言します」

菅井 「その効果の偉大なことは私の如き鈍足でも、どうやらかうやら盗塁に成功したのでも分りませうハヽヽヽヽ」

桐原 「トレーニングというても別段むつかしいことではなく、足の方を揉む時にはアルコールを以て初め十分に塗布して両手の掌の横で交互に排腹部を軽く叩いて尚ほ揉み柔げればいゝので、また肩の方は矢張り初めアルコールを塗りその上アブソービンを少量つけて軽く揉むので試合の前後に選手がお互にやればいゝのです」

小野 「それに澤山の試合や長い旅で疲れきつてゐる時に、このトレーニングを行ふと疲れが抜けて元氣が恢腹します、ですから無論練習をする時にもやらなくてはなりません」

腰本 「トレーニングをやる時間は一寸想像すると日本の按摩の事を思出す為めに随分長い時間を要するやうに思はれるが桐原君のいつたやうに非常に簡単なものであるため時間は精々五分もあれば結構ですし薬も廉価なものだからね」

高須 「タイカッブやジョンソン、バーンス、アレキサンダー等四十にして尚ほ元氣旺盛にプレーし得る事もかゝる用意を怠らないからでせう」

井川 「一週間に一度位にゲームをするのでしたら或はその必要をあまり感じないか分りませんがビッグリーグの様にシーズンに入ると殆ど連日の様にゲームをするとなるとトレーナー無しでは耐へられないでせう、私も今度の遠征で隔日にゲームをして痛切に此の必要を感じました。日本でも全國中等學校野球大會の様に連日ゲームが続く様な場合是非必要と思ひます」

腰本 「日本では足踵を捻挫するとそれを正位置に直してギプス等で固く継帯して静に幾日間でも全快するまで自然にまかしてゐるが、米國のプレーヤーは捻挫するとその数日後または翌日からその局部を揉む方法を執つて居ます、この方が全快も早いやうに思はれます。現に私が布哇で負傷した後、一ヶ月も静養してゐたが、眞に歩くまでには行かなかつたのに、揉み療治をされたら一週間ぐらゐでドンドン走れるやうになつた点から考へると揉療治が一番捻挫にはいゝと思はれます」

菅井 「私も度々足を捻挫する事がありますので、その療法に困らされたものです、その経験上マッサージが一番きゝめが確しかなやうに思ひますがこれに武井式オートミン液注射法を加へれば一ヶ月位かゝる負傷も五日位で治る事は私の経験上一番顕著なものです」

大阪毎日新聞・大正14年8月23日

見物人本位に
ダイヤモンドが取つてある

「これもネーフに聞いた事ですが、足を挫いた場合等にはバケツにでも熱い湯と冷水とを用意して交互につけると痛みも去り早く歩けるやうになるというてゐました」

桐原 「私がワシントンでスライディングし膝を打つて普通ならば数日間は歩けないくらゐ強い打撲傷を受けましたが、其時其方法を試みたのです、即ち膝部に先づ熱いタオルをつけ全身から汗が出るくらゐまで暖めた後今度は氷嚢に取りかへて冷やし斯く交互に暖めたり冷やしたりする事を十数回繰り返したところ痛みも去りその翌朝には普通に歩けるやうになつたのでまたその晩もう一度それをやりますとその翌日には平氣でゲームが出來る程度に回復したので自分ながらその効果のあるのに驚いた次第です、但しお湯をあまり熱くしたので火傷をしましたがね……」

高須 「それから設備の完備してゐるのでゲーム終了後直に選手はシャワーを取つてゐます、往々にして試合後入浴する事がいけないといふ説を聞いた事がありますがそれは嘘であると思はれます、設備の完備しない日本の現状ですから直ちにシャワーを取るなり入浴することは不可能かも知れませんが出來得る限り早い方法を以て入浴する事につとめたら生理的にもいゝと思ひます」

腰本 「メージャー・リーグのゲームを見に行つた先づ第一に驚かされたのは見物席とダイヤモンドの完備してゐることです、高層なる二重屋根又は三重屋根(ヤンキース)のグランドスタンドに設けられてゐる一人一席の椅子から青い芝の生々としてゐるよく掃き清められたダイヤモンドを見ると實によい氣持ちがします。
 アメリカン・リーグ側ではゲームの開始前の練習のためスパイクで荒された内野を五六人の人夫が奇麗に手入れしてプレーボールの声がかゝる時分には一つのスパイクの跡も認められなくなつてゐます、これに反してナショナール側ではこの試合前の手入れをしませんでした、これは矢張り金の豊富にあるチームのことだから手入れをする方がよいやうに思はれます。
 只一つ一寸変に感じたのは一塁、二塁間及び二塁三塁間に白線が引いてなかつたことです、走者が右各塁間でタッチを避けるためにスリー・フィート・ラインから走り出た場合その判断を下すことが六ヶ敷いだらうと思はれますが審判が皆玄人でそれが毎日専門にやつてゐるからラインなんかいらないのかも知れませんが……
 それからチームのメンバー全部に番号がいつて居り、試合の日にはこの番号のついたスコーア・カードを賣つてゐるので初めてメージャー・リーグを見る吾々にしても中堅の後方のスコーアボールドに出る数字を見れば誰が何所のポジションをやつてゐるか打者は誰であるか直ぐ分るので非常に便利でした。
 只光線のとり方が悪いために内外野手の内誰かゞ太陽に妨げられて平凡な飛球をヒットにして終ふ場合がありました、見物人本位にダイヤモンドをとつてあるため太陽は總て捕手の後方(左右に幾等かよつてゐるのを常としてゐます)に落ちるやうに出來てゐます、即ちベースボールは夏のものであるから観衆を日蔭に置くやうに作られてゐるので外野手は多く色眼鏡の用意を忘れないやうにしてゐます、この太陽の光線を考慮してダイヤモンドを取つた点においては甲子園のグラウンドは理想的に出來てゐるやうです」


木造 「日本の讀者諸君のためにいま腰本君の述べられたメンバーに番号がつくいふ事をも一度解説して見ますと、例へばヤンキース軍についていふと

  1.ワニンガー SS
  2.ヂュガン 3B
  3.コムス CF
  4.ルース RF
  5.ミューゼル LF
  6.ゲーリッグ 1B
  7.ワード 2B
  8.シャング C
  9.ベンゴー C
 10.オユール C
 11.ホイット P
 12.ショウキイ P
 14.ペノック P
 15.ショーカー P
 16.ジョンス P
 17.ビール P
 21.スコット 1F
 22.ピップ 1F
 23.シャンクス 3B

といふやうに各選手に番号がついてゐるのでこの番号は日本でもやつてゐるスパルディングシステムによる守備位置につけた番号では無いのです、先年職業團が來朝した時にアンダーウェヤーやスウエーターなどに138だの52だのと番号がついてゐたのを見た方があるでせうが詰りあれがその選手の番号なのです、でいよいよ試合當日

 ワニンガー SS
 シャンクス 3B
 ルース RF
 コムス CF
 ミューゼル LF
 ゲーリッグ 1B
 ワード 2B
 シャング C
 ペノック P

のオーダーで戦ふとすれば、スコアボールドの打撃順の所には

 1・23・4・3・5・6・7・8・14

と数字で表はされるので、観衆は入場する時五仙又は十仙出して買つて來たスコアカードに照し合して出場する選手の名を知る事が出來るのです。(完)

大阪毎日新聞・大正14年8月24日