打撃王はタイ・カッブ
その次はゴスリンが好い

木造 「チーム全体のバッティングはそれ位にして個人のバッティングに移ります」

 「いゝと思ふのはタイ・カッブ、ルース、コリンス」

小野 「コリンスとスピーカー」

渡邊 「ゴスリン、カッブ、シスラー」

腰本 「何といつてもカッブです、続いてスピーカー、シスラー」

桐原 「ゴスリン、ゲーリッグ、カッブ」

川越 「ゴスリン、カッブ、グロー」

井川 「ライス、シスラー」

二神 「シスラー、ゴスリン、カッブ」

菅井 「ヤング、へールマン」

高須 「カッブ、ゴスリン、ヤング」

内海 「コリンス、ジャッヂ」

木造 「指名した人数の順によるとカッブ(7)ゴスリン(5)シスラー(4)コリンス(3)スピーカー(2)ヤング(2)あとは一人づゝとなります、よつてその得点順で順に批評したいと思ひます」

森 「前にも言った通りカッブの元氣−熱−さうしたものに對してトテモたまらない感じに打たれます、私には丁度幸四郎の踊りを見てゐる時のやうに恍惚とさせられました」

川越 「ファイテング・スピリットや元氣のある事は同感です」

高須 「如何なる投手に對しても何等の躊躇無く、且つ投手を圧倒する威力及び態度は、彼の打撃の總てを語つてゐます」

二神 「自分等は彼をプレス・ヒッターだと思つてゐましたが鋭いスヰングで投手の球を引叩くその老いて益々旺んな元氣に感心しました」

腰本 「それについてカッブ自身はこんな事を言つてゐます「自分は永年ベースヒッティングをするよりも、ボールをウント引叩く打法の方が効果が多いと感じた」

桐原 「彼は右手と左手とを五寸程あけて握つてゐるので、非常に不器用に見え且つボックスの最後方に位置してゐましたが、確かに彼れは永い経験から得た自信ある構へと好い目をもつて今迄のレコードを保持してゐるのでせう……尤も構へた時の右手と左手との間隔はスヰングする時にはすつかり密接さして居ましたが……」

菅井 「私はカッブがボックスに入つた時足を揃へて構へるといふ他の人と違つた打法を執つてゐるのが目につきました」

渡邊 「カッブに限らず、スピーカー、シスラー、ゴスリン、ルース、ヤングの如きいゝバッターは皆足を揃へてゐたやうです」

腰本 「好打者又は強打者といはれてゐる連中が、皆両足を喰付けて少し前屈みで立つてをり、球の遠近によつて投手に近い方の足を自由自在に踏み出して樂に球を打ち捲るのは打撃の姿勢として完全なものと思へます、日本の球界では両足を初めから少々開いて立つてゐるのが普通の姿勢とされてゐますが、大リーグでもこの姿勢をしてゐる連中が可なり多い所を見ると、普通の打者はこの姿勢をとるものと考へられます、たゞさすがは大選手連中が揃つてゐるだけに両足をウンと開いて頑張つた打撃姿勢をとつてゐるものは一人もないから、この打撃姿勢は不可であると云へるでせう」

高須 「カッブが打つてからのスタートの早い事には驚かされました」

腰本 「カッブのバッティングで特に感じたのはツウストライクを取られた後何等の動揺を見せず却つて冷静な態度になる事でした」

木造 「今度はゴスリンに移ります」

桐原 「彼れはワシントンの攻撃力の中心です、あの偉大な体格、鋭い「振り」は投手を威嚇するに十分です、左打者である彼は、打つた球を殆んど右翼方面へ無理にでもゝつて行く処は、職業野球團における凡てのスラッガーと共通の点をもつてゐる様です」

腰本 「何しろまだ大リーグに入つて数年しか経ないので彼の眞価は将來より大なる打者として發揮されるものとしてベーブルースの衰へたる後の人氣者となるでせう」

二神 「實際三振して帰つて來る時など、少しも悪びれない態度は見上げたものです」

桐原 「チョッと日本における慶應の永井のやうな地位と實力とに比較出來ます」

井川 「他の連中が皆何とかして當てやうとする時にでも、彼獨りノビノビとした打法を執つてゐるのは氣持ちが清々します」

内海 「だからピンチに強いかと思ふと弱いこともあります」

大阪毎日新聞・大正14年8月13日

返り咲きのシスラー
地味なコリンス、申分のないスピーカー、鋭いヤング

木造 「次のシスラーについて述べて下さい」

桐原 「先づ第一にその態度が非常に好感を與へます」

腰本 「一昨年彼は目を患つて、昨年は打撃が悪かつたので、本年もどうかと心配するファンも多かつたが、すつかり本調子にかへつて昔日の彼の實力を發揮してゐます。彼はカッブやゴスリンと異り、一見すると實に器用な打法をとつて居り、投手の投げた球の如何によつて、左翼、右翼、中堅と巧に球を打ちこなしてゐるのはスピーカーとよく似た打者といふ事ができます」

二神 「カッブが氣で打つ人なら、シスラーのバッティングは、いかにも洗練され切つた打法だと思ひます」

桐原 「シスラーはコリンスの打撃と一寸似てゐます、コリンスの方が少しファイティング・スピリットが旺盛のやうに見えましたネ……」

小野 「シスラーやコリンスの小さい身体で、あれだけの守備もし、ルースやゴスリンに負けない打撃率を得てゐますから、日本人でも頭のいゝ選手でしたらあの仲間へはいれない事はないでせう」

「見解の相違です、アメリカのやうなところでも何千人の選手中から何人のコリンスが出ていますか」

内海 「たとへ身長からいつても、体重からいつても、日本人とするなら、大きい方です、頭の問題なら我々だつてさほど相違はないと思ひますが、彼等の中にはいつては、我々の身体では歩調を共にしがたいでせう」

菅井 「コリンスのバッティングは早大の山崎君に似てゐます」

腰本 「コリンスの打撃は素人うけのしない地味なものであるが、玄人がみると實に何とも言へない味があります」

高須 「もつと鋭いバッターだと想像してゐたが、左程鋭くなく感じられました」

「かつて三宅大輔君が、コリンスを宗十郎に似た感じのする人だと評してゐたが、私にはやさしい感じより、藝の細い仁左衛門といふ感じがしました」

小野 「スピーカーは最も無理のない調和のとれた打者で、構へといひ振といひ申し分がありません」

高須 「同感です、特にスヰングの自然な事は模範とすべき事です」

腰本 「僕も同感です、十余年前ホワイトソックス軍に加はつて來朝した時の打撃の構へとは変つてゐたが、それ以上に洗練された姿勢をもつて、カッブと全然反對な滑らかさを思はせる代表的打者と言へます、彼は氣で打つ打者でなく眞に技巧の極致に達してゐる人といへるでせう」

二神 「好守共に整つた名選手ですネ」

高須 「ヤングがボックスに立つた時のあの鋭さは、何者をも征服してしまはねばやまないといふ感じを與へます、投手の投球に對して恰かも猫が鼠を覗ふが如く球を注視してゐる、そこにも何者かを掴まんとする鋭さがあります、殊に彼の選球眼の正確さは、他の追従を許さぬところで、彼の如き勇氣と執着心のある事を私は讃美せざるを得ないのです」

菅井 「私も同感です、そして私の見た外野手中の一番印象の深いプレヤーです」

小野 「余り氣ばかり焦つて、打つときに身体を非常に動かし過ぎる点がバッティングとして悪いところで、それを矯正すればカッブやスピーカー以上になれるかも知れません」

高須 「しかし炯眼マグローが、尚且つ小野君の言ふ欠点を放任してゐる事は、そこにヤングの打撃の生命があるのではないでせうか。殊に第一打者としては理想的です」

腰本 「マグロー幕下の鬼才としてマグローのファイティング・スピリットを受けついでゐるのは、彼れヤングで、フリッシュ、ケリと共にマグロー旗下の三偉才といへるでせう」

大阪毎日新聞・大正14年8月14日

振はないルース
その他の名選手の特徴

川越 「私は初めてグローを見た時打撃の構への余りに変梃なのに吹き出しました、それは徳利のやうなバットを、カッブ以上に両手の間をあけてそれを撃剣のやうに頭上にかざして、上半身を殆ど投手の方へ向けその打つ球は、内野を矢のやうに飛びました、私がスポルディング會社で彼が使用したバットを見た時(それはルールの許されている局限までの太さですから、どんなバットか了解出來ると思ひます)彼がボックスに立つ毎に、見物は一斉に「ウォー」と大きなうなり声を發し、獨特の声援をうけてゐました、前述の構へ方から見ても私は彼がピンチには非常に強いと思ひます」

桐原 「ヤンキースの強打者の中に数へられてゐたピッブのポヂションを奪つたゲーリッグは、只今では六番打者ですが、ベーブルースの衰へた将來には必ずヤンキースの四番打者でせう、まだ若いので脆い処もある様ですが、私等の見た試合には随分好く打ちました。その一塁手振りは慶應の故松田氏とそつくりでした」

 「ベーブルースは今年は病氣のせゐか、サッパリ振ひませんがほんたうに惜しい事です、わたし達は四度彼を見ました、そしていつもホームランを期待して穴のあく程彼のバットを見つめてゐましたが、安打一つ見ることが出來ませんでした。五十九本といふ空前絶後のホームラン記録を忘れない観衆は、今度こそ打つだらう…今度は今度はとそればかりを期待してゐます。私もそれに似た氣持で彼を見ていました。
 往年破竹の勢でホームランの記録を作つてゐた時は、現在はゴスリンにも増して猛烈なスヰングをしたさうですが、今はそれも見られない。病氣とは云ひながら、想像した以上にやさしく打つてゐます。サッパリ打たないベーブルース。病氣の恢復を祈つて彼を見捨てない米國ファンと同じやうに矢張り私も彼が大好きです」


二神 「僕は彼が必ず復活するものと信じます、それはホームランにこそならないが、彼の打球は他の人のそれよりも凄い飛方をするのでもわかりますし、彼のスイングも鋭さに於て、他の追随を許さないものもあります、彼の病氣は彼自身の病氣でなくヤンキースの病氣と同様と云へます、彼が往年の元氣に立帰つた暁は、ヤンキースも現在の様に下位に甘んじてはゐないでせう、彼の横暴はしばしば聞いてゐましたが、僕等の見た時はそんな感じはしませんでした。
 また握手した時なんかは、温厚だとこそ思へ、彼に對する批難はどこから來るのかと了解に苦しみました、彼が未だ人氣のあるのは彼の心機一転がたしかに一因をなしてゐると思ひます、兎に角過去の英雄として彼を地下に埋めるのは残念です」


新田 「ウインゴーは昨年初めてデトロイトに加はり、カッブの薫陶を受けて本年は素晴らしい當りをみせてゐます、左打者共通の弱点である左投手に對してのみ猛打振を見せてゐますが、体格は中肉中背でシスラーよりやゝ大柄であり走力もすぐれてゐるから左投手に對しての打撃の呼吸を會得した場合には、カッブの後を承けて攻撃の主力となるでせう」

井川 「セネタースのライスは日本ではあまりその名を知られてゐないプレーヤーです、試合を見てゐても彼について特別の親みを持たない人にはそんなに注意せられないでせう、それほど彼は特別偉大な体躯の所有者でもなく、変つた打法を用ゐるでもなく、一見特にすぐれた打者とは見えないけれども、むらのない底力のあるファーストバッターとして、理想的な打者でしばしばチャンスを作りピンチに打つて味方を勝利に導いてゐます、去年セネタースがワールドセリースに優勝するに至る迄の彼の目覚ましい奮闘振りは、今日彼が依然として同軍の第一打者として、又時に第三打者として動かないのを見てもほゞ窺がはれます」

菅井 「私の見た右打者中一番スラッガーと思つたのはヘールマンです、彼はカッブの秘蔵弟子だけあつて、ボックスに入つた時の構へや球を打つ時の動作は、カッブそのまゝです、さうして彼のスイングは、丁度ゴスリンを想像させるやうな凄みを持つてゐます、たゞ彼以上の好打者たるホーンスビーの打撃振を見なかつた事は非常に残念だと思ひます」

なほこの他にもヂャイアント、ヤンキーの両ミューゼル、ブルックリンのウヰートフォルネーア、セントルイスのケーン、ウヰリアムス等も大打手として満場の推薦があつた。

大阪毎日新聞・大正14年8月15日