眞面目なプレー振り
想像とは全く違つた

我々は渡米中、メージャーリーグの試合を九回見學したので、帰途コレヤ丸の船中で、七月廿五日から連日、その印象を辿つて合評會を開いた、會する者は木造監督を座長として、腰本、小野、森、渡邊、井川、川越、桐原、高須、二神、菅井、内海弟の十一選手(新田選手は滞米中腰本選手にその感想を語つて居たので、新田選手の分は腰本選手の代弁である)

合評の範囲は我々の見たチーム、我々の見た選手に限つたので、この合評に上つた以外にもなほいヽ選手が有る事は勿論であらう、我々の見たのはフィラデルフィヤ對シカゴ、デトロイト對ワシントン、クリーブランド對ニューヨーク(ヤンキー)ニューヨーク(ヂャイアント)對ブルックリン、ニューヨーク(ヤンキー)對ワシントン、ワシントン對シカゴ、デトロイト對ニューヨーク等で、即ちアメリカンリーグでは、ワシントン、ニューヨーク、フィラデルフィヤ、デトロイト、シカゴ、クリーブランド、セントルイスの七チームで、ボストンを除く外は全部見た訳であるが、たヾナショナルリーグはヂャイアントとブルックリンだけ、しかもヂャイアント軍は怪我人続出で、フリッシュは全然姿を見せずテリーやグローも途中から出場し、ケリーも出戦せずといふ風で、その全班を窺ふ事が出來なかつたのは甚しく遺憾であつた、またワシントン軍でもウォータージョンソンの投手振りは是非見たいと思つたのが、期待に反して終にピンチバッターとして一度出たきりでそのピッチングの練習を見て僅に慰めとしたのも極めて残念な事であつた、左に揚ぐるはその合評會の筆記であります。

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木造 「これから我々の見た範囲についてメージャーリーグの合評を開きます」

腰本 「最初に、先づ聞いて想像してゐたビッグリーグと、實際見たビッグリーグとの感想を話して見たいと思ひます、自分はこの間に非常に差のあつた事に驚いたのです、それは商賣人であるから、ゲームそれ自身に對して眞面目を欠く憂があるやうに傳へられてゐたがこれが全然間違ひで、さすがは野球を職業としてゐるだけに、プレーそれ自身では米國の大學チーム以上に眞面目で、且つ緊張してゲームを進めてゐるのは全く感心の外ありません」

 「私も同感で何よりも第一に目についたのは、全くそれでした」

新田 
「私達がかつて來朝したコーストリーグのプレーヤーや、セミプロの連中から受けた印象が、つまり商賣人のチームは不眞面目であるといふことであつたのでした。ところが今度初めて是等の誤解をすべて解く事を得た次第で、野球といふものはアマチュアたるとプロフェッショナルとを問はず、眞に野球を理解してゐるプレーヤーによつてプレーされる場合には、眞面目になされるものであるといふ事を知つて大いに喜ばしく感じました」


高須 「プレーそのものが自分の職業であり、その職業が勝敗を決する深刻なる行為である以上、プレーすることが定めし、死物狂ひの苦痛を伴ふものであらうと想像してゐたが、實際は、愉快にゲームを享楽してゐるのが奇異に感じられました、さうして腰本君の観察の如く自己の職業に對して眞面目眞剣であることは同感です」

川越 「コーストリーグやアメリカンアッソシエーションのゲームも見ましたが、彼等の一部が日本に來た時とは違つて、矢張り眞面目であつた事も感心しましたし、又ビッグリーグ中の一部の者が先年來朝して立派な技術を見せたとはいへ、その中のどれだけが實力かを知るに苦しみましたが、今回實地にその抜目の無いプレー振りを見て、來朝當時吾々が驚いた以上の威力のあるに、二度びつくりさせられました」

渡邊 「その戦闘振りを形に譬えていふならば、丁度精巧な機械が寸毫の狂ひもなく進行するやうなものですね」

二神 「すべて物事は上手になればなる程熱心になるもので……野球の上手は即ちメージャーリーグの連中ですから従つて眞面目に熱心にやるのでせう」

木造 「そんなに眞面目々々々と云ひますが、ベーブルースが一塁でアウトとなつた場合にベンチに帰らず外野に行き、又味方の投手がドンドン打捲られてノックアウトされて投手を変へる場合などに、芝生の上に仰向けに寝転んでゐる態度はどうですか」

森 「あれは病氣上りの為めでもありませうし米國でも彼だけは除外例としてゐるやうです」

井川 「ルースだつて全部が不眞面目といふ訳でも無いので、彼のバッティングの時の眞面目さはどうですか」

大阪毎日新聞・大正14年8月10日

投手力に優る打撃
ボールの製法を改めるの議

高須 「ガイド・ブックや、新聞紙上、或ひはその他の通信機関を通じて私達の熟知してゐるプレーヤー達==即ち古強者がプレーしてゐるのを見る事が出來たと同時に私達の知らない若いプレーヤー達殊にスクール・ライフの体験者を見ても、昔の如く単にプレーの優秀のみを以てメーヂャー・リーグのプレーヤーとせず、何となく新時代の空氣を注ぎ込まんとするやうな跡が見えました、それから例へば早、慶、明のチームに各々その校風が何処となく現はれてをるやうに、メーヂャーリーグの各チームにも、そのチームの所在してゐる各都市の都市氣分とでもいふか、さうした色彩を現はしてゐるやうに思はれて面白く感じました」

二神 「メージャーリーグは守備がすぐれてゐるから内野ゴロは殆んど物にならず、却つて一塁にランナーのゐるときは、ダブルプレーの機會を與へる様なものです。殊にどのチームにも目立つのは一塁手の上手なことです。三塁手も範囲が廣いから、遊撃が大助かりでベース近くの難球もよく捕へることが出來るのだと思ひます」

木造 「一般論はそれ位で技術についての感想に移りませう」

桐原 「凡てが私等を驚かすものばかりでしたが、バッチングが想像してゐたよりも遙かに優れてゐる事を日本のファンに知らせたいですね。有名な投手が投げても、一人で最終まで投げ了へたものは稀なことがそれをよく証明して居ります、尤もアムパイヤーが投手に對して余りに厳しすぎるのもバッチングが優秀なる一つの原因でせう、それから公認のスコアラーが打者に非常に有利な見解を以て安打か否かを定めるから、自ら安打も増して打撃率を優秀にします、最もひどい例はピーゴロをファンブルして一塁に間に合はなくなつたのを翌朝の新聞に安打にしてゐたことがありました、このことは日本のスコアラーの見解と隔段の相違のあることを認めます。
 又、ランニングが非常に早くて日本で私等が彼等を見た時と違つて眞剣にやつてゐるのですから、もう彼等は一生懸命で少しのファンブルを利用して二塁打を三塁打に三塁打は本塁打と云ふ風に冒険をして余分のベースを得るやうに努めいざ間に合はないとなると猛烈なスライヂングをして塁手につき當つたりして眞剣を通り越して喧嘩腰になつてゐることも度々ありました、これなんかは私が初めてビッグリーグを見て驚いたことです」


川越 「打撃の猛烈で思ひ出したのは、私共が渡米中、讀んだ新聞の中に、ナショナルリーグの評議會の事を報道し「近來ホームランが余り多くなつたからボールの作り方を改めよう」といふ事が議題に上つたと記してありましたが、實際投手より打者の方が強くなつてゐるといふのが目下の状態でせう」

腰本 「私も打撃が投手力に比して遙かに優れてゐるのは事實であると感じた一人です、特に本年度における各選手の打撃力の猛烈なことについては、何か原因がなければならないと思ひます、川越君が云つたやうにライヴリー・ボール(よく飛ぶ球)に原因してゐると云へるかも知れません、ジャイアントの名監督マグローも云つてゐるやうに本年製造されたボールは非常に遠くへ飛ぶやうになつたゝめ、先年やつた投手の威力を削ぐ規則の改正=例へばスピットボールとか、シャインボールの使用禁止=と相俟つて益々打撃力が投手力を凌駕するに至つたものと見えます。
 斯界の名投手ジョンソンが『今日のボールを以てしては三四点勝つてゐても投手は少しも安心は出來ない、満塁にでもなれば、どんな打者がボックスに現はれても本塁打を打つ可能性があるので九回の終るまで氣を許す事は出來ない』と云つてゐるのは、この事をよく證明してゐますし、又實際打者の打つた球がチョッと野手の横にでも來れば捕れないのも、これまでに見られなかつた現象で従つて野手が打者のバットから弾き出される弾丸のやうな猛球のために負傷する事が多いのもライヴリー・ボールのためだといへます。
 その他ベーブルースの出現によつて本塁打が見物に喜ばれることが打撃の向上に非常に貢献してゐること、又ライブリー・ボール等が作られるのもこれがためだともいへるかも知れません、實際昨年度六月末までの本塁打数と本年の六月末までの本塁打数とを比較して見てもライヴリー・ボールの影響を知ることが出來ます、昨年に比して約六割強の本塁打が出てゐるといへば誰しも一寸本當と信じられない位でせう」

大阪毎日新聞・大正14年8月11日

チームとしての打撃力
デトロイトか巨人軍か

木造 「チーム全体として、バッティングのいゝ所を擧げて見て下さい」

新田 「チームのバッティングとしてはジャイアントが第一でせう」

高須 「打撃において、デトロイトのあの燃ゆるが如き氣慨が必要なことは無論のことです、實に物凄いです、然しジャイアントを見て御覧なさい。物凄いとは言へないかも知れませんが、フリッシュ負傷し、ケリーも傷き、グローも出陣しない所謂クリップなチームでありながら、それでも勝利を続けてゆくところには、……そしてその勝利が後半において多く得られてゐることを見ても打撃に頼母しい何者かゞあると信じられますね。
 例へばボール、ストライキに對する判断の厳守とか、打撃の一つの根本要素ともなるべきカウントに對する訓練の好いことなどはそれですが、さうしたことが原因になつてヒット・エンド・ランが完全に行はれたり、ランを得る方法によどみがなくなつたりするわけで、チーム・バッティングとしての見地から見ても、彼等の打力には底力があり恐るべきものがあると思はれるのです。
 それに氣慨でも、決してデトロイトに劣つてはゐないと断言します、兎に角ぬけ目のないさうしてすきのない打撃であると思ひます」


森 「私はデトロイトがいゝと思つています、へールマンやターペナーは最初からカッブに指導され、カッブに私淑してゐる関係上、その「打つ氣合」が何ともいへずいゝのです、その他の者でも何れも指折りのいゝバッターです」

二神 「ウインゴーが當つてゐる時のデトロイトの三番(ウインゴー)四番(カッブ)五番(へールマン)は他のチームでは到底見る事は出來ません、實に何ともいへぬ味ひですねェ……」

桐原 「私は率は悪いがワシントンのバッティングは一番にゲームに強いと思ふのです、先づどのバッターを見てもピンチに強いといふ事がチームバッティングとして大なる強味でせう」

渡邊 「同感です、デトロイトのバッティングは、カッブが指導してゐるのでフォームがよく似てゐるため投手の投球が割合に樂です」

腰本 「見解の相違です、若しカッブに似てゐるから投手が樂だといふならば、カッブは非常に與みし易い打者といふ事が出來ます、しかし彼が二十年の野球生活は、左様な事を如何なる投手からも云はれた事がありませんし、その記録は米國の球界でも空前の者である事は如何に彼が強打者であるかを證明してゐます、バッティングのみから論ずれば、私はデトロイトと、目下アメリカンリーグの第一を占めてゐるフィラデルフィアを取ります」

渡邊 「カッブは別格です、他の人の能力が果してカッブを眞以してその塁域を摩し得るかどうかは疑問です」

腰本 「そんなことはありません、タイ・カッブがデトロイトのマネージャーとなつてチームの打撃率は一擧五十ポイントも上りました。勿論他の打者がカップの打法を採用した結果なのです。又へールマンもカッブの教導の結果、四割打者の域を上下するアメリカンリーグ中の強打者となつてゐますが、それまではやつと三割打てる位の打者だつたのです、この数字によつて見ても、又昨年より本年にかけてのチーム打撃率が、アメリカンリーグの第一位にあることも、攻撃力の優秀なことが證明出來ます」

菅井 「デトロイトが攻撃力で最も優れてゐるといふなら私はフィラデルフィアアスレチックスをそれに代へたいですね、デトロイトは成程よく打ちますよ、然し只今の処ではフィラデルフィアの方が當つてゐます、その當りやうが現今に於ける攻撃王といひたいです」

小野 「フィラデルフィアはいはゆる馬鹿當りです、若い選手の寄り集りな為め、元氣に任せて打捲つてゐるだけで、一度當らなくなつたら到底あれだけ打てる底力は無いでせう」

二神 「さうばかりとはいひ度くはありません、コニーマックが十年苦心し且つ百万弗を投じて集めたプレヤーなのですもの」

木造 「ヤンキーはどうですか」

内海 「あれは今沈滞期で、フィラデルフィアと反對の現象を呈してゐるのでせう」

井川 「ルースの當らなくなつたのも一因でせうし、ハギンスの政策から來てゐる内部の不統一が選手の闘志に影響もしてゐませう、例へば日本に來たブッシュが、弊履の如く他に遣られたなども選手に暗影を投じた一つだといはれてゐます」

渡邊 「ハギンスが千回以上連続出場してゐた遊撃手のスコットをワシントンにやつたのも當を得ない行り方で、矢張り不平の一つとなつてゐます」

桐原 「スコットも非常にピンチに強いさうで、ヤンキーにゐた當時デトロイトを度々破つたのは、殆んど彼の為であるといふ位ゐですから、それを得たワシントンはピンチに強いペキンボウと相並んで一層攻撃力を増したものです」

大阪毎日新聞・大正14年8月12日