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オリジナル小説「夢追人/月影」
■緑王 

■月影

 青白く満ちた月の輪があたりをほんのり照らしている。
 レムはゲイルの寝室で眠れぬ夜をすごしていた。


 ゲイルが口火を切らなければ、ルークとレムはいつまでもその石に見とれていただろう。
 彼の提案でレムがゲイルの寝室を利用し、ルークと彼…
 ゲイルが長椅子で休むことになったのは、つい先刻のことであった。


 寝床から起きだしたレムは夜気から身を守るためマントを羽織ると、すでに眠りについているゲイルたちの部屋をよこぎり、戸外へと忍びでた。
 地面に映しだされる月影が主人の動作をあますところなく克明に模倣していく。
 愛馬がいるうまやまでくると、少女特有の白く小さく…華奢な手が、とびら越しに三頭の首を同等な慈しみをこめて撫でていった。
 ブルルッ………
 夜気で馬たちの鼻息が白く浮きあがる。
「眠れませんか? レム殿」
 背後から何時とはなし……ゲイルが問いかけた。


 馬の首を撫でていたレムの手がつと動きをとめる。
 ふり返ったレムの表情には、陰りがさしていた。
「不安……なのですね。心配いりません。
 ルーク殿はお若いが、意志は強い。
 何事があろうとレム殿がおそばにいて、心の支えとなれば…この一件成し遂げられるでしょう」
「……私に……私は何も力を持っているわけではありません。
 私がおともするのは、かえって邪魔になるのではと気がかりなんです」
 馬から手を放しゲイルから視線をそらす。
 両手は知らずとマントの両端を強くにぎっていた。


 ゲイルが静かに歩み寄る。
 少女の抱いている不安をかき消すかのように…
 彼女の左手をとり、両手で優しく包みこんでいく…
 …何も云わずじっと見つめていると、何やら手の平へ人差し指で印らしきものをかたどっている。
 不意をつかれたレムの面は一瞬こわばりつつも、その意味を読みとったのち破顔へと転じた。
 子供達がよくつかうおまじない。
 悲しいこと、苦しいこと、つらいこと、恐ろしい境遇に陥った時など…
 その印をきざみ、心を落ちつかせるのだ。
「ありがとう、ゲイル……」


 口元に笑みを浮かべたゲイルが先程まで休んでいた家屋を指ししめし、やんわりレムをそちらへ促す。
「夜はまだ長い、もう少し身体を休めましょう」
「ええ……」
 ゲイルの言葉にひそむ意味をレムは心に思う。
 この冒険が、すぐには終わらないということを……
 だが、二人の影はそんな想いなどみじんも感じさせぬまま、ゆっくり家屋へと移動した。


          ***


 乳白色の石はちょうど片手に収まるくらいの大きさだった。
 楕円の形をしており、表面がガラス質。
 人工石のようにも見てとれる。
(あの『魔石』に宿った魂が、今…ラオスを侵している………)
 まぶたを閉じたルークの脳裏を、無数の黒い影がかすめた。


 ラオスを救う…それは、邪気をはらんだ『魔石』の排除を意味している。
 半永久的な命と増幅された魔道を手にいれようと、肉体まで失い『魔石』に宿った彼ら魔道師たち自身、予想だもしなかったことではないのか……?
 それに対峙するゲイルの心境は、さぞ複雑だろう…
 いや、これ以上関係のない人たちを巻きこんでしまうのは避けたい……
 犠牲者をだしてはならない………
 ラオスを救うことが、先決であるはずだ。


 王位継承者というぬぐい去れない血統が、そんなルーク少年の心を徐々に成長させていたことを…
 この時、本人は気づいていただろうか……


 パタン
 扉のしまる音が微かにひびく…
 先刻まで屋外にいたレムが戻ってきたようだ。
 きっと彼女も眠れなかったのだろう 。
 ゲイルがその後を追うようにして戸外へ出ていったのを知っている…
 何にせよ、明日のためにも今は身体を休めることが肝心だ。
 眠ろう…
 明日になれば、彼…ゲイルが私たちをあるべき方向へ導いてくれる。


 ルークは身じろぎを一つすると、深い眠りの淵へとおちていった。