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オリジナル小説「秋虫と缶ビール」
■緑王 

■秋虫と缶ビール

縁側に腰掛け盆の上にのっている残り1本の缶ビールに手をだそうとしたときだ。

「そいつは、わしのもんじゃ」
じっちゃんが、異様なパワーを含んだ眼力でオレの視線にからみついてきた。
「………………。」
ダメだ。じっちゃんのあの眼光には勝てねぇ。
オレは素直に負けを認め、未練たらたら缶ビールをじっちゃんに譲った。

手渡ししようとした缶ビールに、渡したくねぇーっていう気持ちがつい働き
缶を掴む指に力がこもってしまったようだ。

「むんっ!」

じっちゃんがオレからひったくるように缶ビールを奪っていく。
『ゴクッゴクッゴクッ』
小気味よいリズムでぐい飲みしていくじっちゃん。
情けないことにオレは喉仏がゴクッと鳴るのを抑えられなかった。
「(はぁ〜〜〜〜〜〜っ)」
「ふっはっはっ。孝史(たかし)よ、すまんのぉ〜」
ニャッと笑ったじっちゃんが空き缶片手に台所へ向かっていった。

ミーンミーンミーン
ミーンミーンミーン

そろそろ子どもたちの夏休みが近づく戸外では、蝉時雨の声が鳴り響いていた。




あれからまだ2ヶ月もたっていないのに、そのじっちゃんはもういない。
遺影には10年前に撮ったじっちゃんの写真がはめ込まれていた。
髪もまだすこしふさふさだった頃のものだ。
じっちゃん自らが自慢していた話だが、若かりし頃そりゃニヒルな青年だったらしい。
うそかほんとかまでは、オレの知ったこっちゃない。
オレの知っているじっちゃんは………………

『孝史、そげなことで泣いてどうする。男は泣くな。』
『なぁ、孝史。じっちゃんと一緒に鮎釣りにいかねぇか。
 美味い鮎、食わしてやるぞぉ』
『孝史、おまえのガールフレンド。えらくべっぴんだのぅ。
 わしがもう少し若けりゃのぉ〜、わっはっはっ』

他愛もないじっちゃんとの会話が走馬燈のように脳裏をかけめぐる。
冠婚葬祭業者のトラックが荷物を引き上げ、家の中も一段落ついたかんじだ。
黒ネクタイをゆるめ、冷蔵庫から缶ビール1本をとりだした。
縁側に腰掛けビール片手に夕闇の空をみつめる。

『ゴクッゴクッゴクッ』
小気味よいリズムでビールを飲み干したじっちゃんの顔を想い出した。




リーンリーンリーン
リーンリーンリーン

草むらでは、すず虫の音が季節の交代を告げていた。



---------------------------THE END



掲示板 2002.10/13掲載分を収録

■あとがき
このおはなしは、某サイト用に創作したオリジナルでございます。
わたしにしては珍しい現代ものにチャレンジしたお話です。


緑王