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オリジナル小説「昼下がり」
■緑王 

■昼下がり

 耳障りな言葉が次から次へとアップテンポなリズムに乗り発される。
 内心うんざりしながら教官の講義に耳を傾けていた。
 窓の外は良い天気だ。
 緑風が鼻からのどを通り爽やかな香りを肺へおくる。
 のどかな食後の昼下がり。


 うぅ〜ん、た・い・く・つ。
 そうだ、広大な丘の上を突っ走りたい気分だ。
 丘って云ったら『カナン岳』だ。
 あそこは地面が芝で覆われ裸足で駆けても気持ちよさそうだ。
 そう考え始めると頭の中はそれ一色に染まってしまう。


 やばい。
 本当にこんな退屈な講義から脱出したくなってきたぞ。
「どうしたの? 何そわそわしてるの?」
 隣の席に座っていたモリスがオレの顔をふいに覗き込んだ。
「ぁあ? な、何でもないよっ。
 天気がいいんでちょっと散歩したら気持ちいいかな、って思っただけ」
 中級クラスになってからオレは隣にいるモリスと相部屋となった。
 彼はオレのテリトリーを侵さないよう注意してくれる。
 だが、なんて云ったらいいのか…おせっかいな面もある。
 嫌いじゃないし、邪魔とも思っちゃいない。
 モリスは憎めない。


『……………!』
「サージ、サージ・ポトフ!」
 だみ声教官がオレを呼んだ。
「は、はいっ」
 あぁ、またお説教かな。オレよく空想に耽っちまうからな。
「モリスとペアになって時空移動の実演をしてみてくれ」
「えっ? はい」
 そうだ。
 時空移動の講義だっけ。
 忘れてた。


「アドラ教官、どうすればいいんですか?」
 口をゆがめたアドラ教官が指示をだす。
「移動するのは、この教卓から後方座席の場所までだ。
 サージ、お前がモリスを運ぶんだ」


 はこぶとは、要するにオレが呪文を唱える側という指示だ。
 モリスはただオレと一緒の空間を共有するだけで何もしなくてもいい。
 ん〜、時空移動っと。どの呪文だったか?
 いけね、ど忘れしちまったみたいだ。
 モリスにこっそり訊いちまおう。
(おい、モリス。たすけてくれっ)
(ん? じゃ、ぼくが小声で唱えるからその後についてきて)
(ありがてぇ、頼む)


 オレはモリスの手助けでその場をやり過ごすことが出来た。
 失敗をあてにしていた渋面教官の鼻をあかしてやったわけだ。
 オレをなめんじゃねぇ〜よっ!
 っと、これもモリスのおかげか、へへっ
「モリス、ちょっと来なさい」
「はい?」
 虚をつかれたモリスの返事。
 おぉっ?
 ゲイル教官…いつの間に。
 さては、オレに手を貸したことがバレてモリスを叱るんじゃないだろうな。
 あれ?
 変だな、そしたらオレ本人に直接云うはずだろ?
「心配するな、サージ。モリスの調子が悪そうなので連れ出すだけだ」
「あ、そうですか」
 何でもお見通しだ。参るな。
 よく見るとモリスの表情が青ざめていた。
 ちっ、具合がわるかったんなら最初から云ってくれよモリス。
 ゲイル教官はモリスを連れ、だみ声教官に一言ことわりを入れてから教室を退室した。
 その他にも何やらだみ声教官に囁いていたらしい様子が目にとまった。
 それからだ、だみ声がますます耳障りな音域に達したのは。
 これじゃ、オレでなくとも弟子達みなが逃げ出したい気分じゃなかろうか?


「おいおい、困るなぁモリス。
 体調良くない時ははっきりおっしゃっていただかなくてはっ」
 ベッドで横になっていたモリスが上半身を起こしオレに向きなおった。
 まだ顔が蒼白い。
「ごめん、急になんだ。ぼくも予測してなかった」
「予測できりゃ、医者なんていらないでしょうが」
 まてよ?
「じゃ、時空移動してからってことだよなぁ?
 オレの呪文の唱え方がまずかったんだろうか?」
 モリスが血の気のない顔で笑った。
「違うよ、君のせいじゃない…君がわるいんじゃないよ…それは…ごめん。
 調子が悪くて…その話はまたの機会に…眠らせて」
「あぁ、気にするな。ってオレの方が気を遣ってもらってるよな。
 ゆっくり休めよ」
「ありがとう、サージ」
 そう云いモリスは再び横になった。


「サージ?」
「は?」
「ゲイル教官がアドラ教官に何て云ったか教えてあげようか?」
「もったいぶるなよ、はは」
 訊くのが怖いぜ。オレのことか?
「弟子達の集中力の無さをサージへ八つ当たりしないで欲しい。って」
「はぁ?」
「ゲイル教官がね、そう云ってたんだよ」
 うひゃひゃ
 恐れ入りました、ゲイル教官。
「それでアドラが顔真っ赤にしてたんだなっ。
 おまえが出てった後、すごい剣幕で講義してたんだぜぇ。
 たまんねぇよ、まったく」
「ぼくも見たかったな」
「よせ、よせ。体調が悪化するだけだぜ」
「そっか、な。あはは」


 モリスは良いやつだ。
 ほんと、憎めないや。



---------------------------THE END




掲示板 2002.5/31〜6/1掲載分を収録

■あとがき
このおはなしは、オリジナルでございます。
この作品の続編に「アドラ教官」「見習い魔道師」があります。
その後続に「魔道試験」「パートナー」2作品が連なっております。

ここではサージとモリスの日常的な信頼関係を描いてみたかったのであります。


緑王